2011年5月22日日曜日

『読む力は生きる力』

絵本に関する勉強の一環で読んでみましたが、乳幼児というよりは、児童期・思春期の子供たちの読書に関する書籍でした。

脇明子『読む力は生きる力』(2005)岩波書店

<内容>

・読書の役割のひとつは、文化を伝えることである。文化とは、人間が自尊心を持つために必要な、生活の中の楽しみや彩りのことである。社会の中で大人から文化や生きていく知恵を受け継ぐ機会のへっている現代の子供にとって読書はそういった意味で重要である。

・ブックスタートなど、成長過程のごく初期においては、絵本はコミュニケーションのためのツールのようなもので、物語を楽しんだり本好きになることを期待するのは過剰である。「認知的流動性」を含め脳が著しく発達するこの時期に、周りの大人とコミュニケーションをとろうとすること自体が大変重要なので、テレビに子守りをさせるなどはもってのほか。絵本により、想像力をきたえることもできる。想像力とは目の前にないものを頭の中に思いうかべる能力。

・最近の絵本は絵が美しすぎて想像の余地がない。地味な絵でも、物語が絵に命を吹き込むようなものこそ素晴らしい絵本の絵といえる。また絵本は子供が文字が読めるようになる助けにならなければならないことを考えると、文字を読みたくなるくらい絵はシンプルであることが大切。

・物語を読むには想像力が必要。字が読めるのと物語が読めるのとはまた違う。信頼できる仲間がいるもうひとつの世界(=読書によって獲得した世界)をもつのは子供にとっての助けにもなる。

・昔話の残酷さばかりが気になるのは、頭の中に残酷な映像がストックされているから。本来の、生活文化や知恵を伝えるという意味を忘れないように。

・たくさん読むことを推奨すると、数多く読むために読みやすいものを選んでしまうなどして質が低下しやすい。安易に作られたダイジェスト版もよくない。 大人は知識や楽しみを得るためにも読むが、子供はまず読む力をつけるために読む。だから映像では代替できない。

ではなぜ読む力を育てるべきなのか?それは、書き言葉レベルの言葉を使える力、想像力、論理的に考える力をつけるため。 読むことはメタ認知能力にもつながる。メタ認知能力とは自分や物事を、一段上にたち、筋道や文脈の中で位置付けて見ることができる力。メタ認知能力の有無は、自己コントロールができるかどうかにも関わる。この能力は、それまでに感受性豊かになっていると発達しやすい。感受性とはささいなことにも心が動くような感度のよさをさす。

・いい本を見分けるポイントのひとつは、「作者への信頼感が持てる」こと、「距離をおいて外からながめながらも、登場人物と一体になれる」こと。大人は子供に読みやすい本ではなく本当にいい本を紹介する役目がある。

<感想>

想像力、感受性などの言葉をこれまで間違って使っていたことがわかった。想像力とは、単に現実にないことを想像する力ではなく、目の前にないものを頭の中に思い浮かべることができる能力とのことで、たとえばこれからの行動の段取りを考えたり、周りの人の感情を推しはかったりすることができる力でもある。また、感受性豊かとはささいなことにも心を動かせるということで、たとえば自然の美しさに感動することができるようなことをいう。(なにかに感動して泣く、というようなことは、感受したことがどう表出しているかということで、必ずしも感受性が高いとはいわない)このような感受性というものがあれば人生が豊かになり幸せに生きられる確率はあがると思う。読書によりこのような力を養うことが必要だという話は説得力があった。

また、児童期や思春期の子供の発達と読書とがからめて論じられていて、観念的にでなく科学的に読書のよさを理解することができた。自分にあてはめるとかなり質より量の読書をしてきたことを反省させられた。

<キーワード>

・ジョン・ニューベリー(世界で初めて、子どもの本の出版に意識的に取り組んだ人物。18世紀のなかごろに、ロンドンのセント・ポール寺院の境内に本屋の店を出した)

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