2012年5月19日土曜日
『本の読み方 : スロー・リーディングの実践』
自身が小説家である平野啓一郎氏が、巷にあふれる速読術指南書に異を唱え、
ゆっくり・じっくり(「奥へ、奥へ」)読むことで得られるものと、
その具体的テクニックにつき記した本。
後半は夏目漱石の『こころ』や川端康成の『伊豆の踊子』など
いくつかの作品の一節がとりあげられ、
着眼点の提示とその分析が繰り広げられていた。
最後にはミシェル・フーコーの『性の歴史I 知への意志』がとりあげられているが、
この本を通じて論じられているもののほとんどは、文学作品といってよい。
私自身、本好きといいながらも文学作品をじっくり味わいながら読んだことはほとんどなく、
また最近大学生の読書について考える際も、
文学作品をどう位置づけたらいいかわかりかねていたので
考え方のヒントをもらった。
私にとって以外だったのは、文学作品にもかなりの確率で
作者の意図する主題があり、それを効果的に伝えるための形式が随所におりこまれ、
練りに練られた構成で作られているということで、
それを読み解くことが「スロー・リーディング」であるということだ。
文学作品は天才に近い人がインスピレーションにもとづいて書くもので
読者のほうも主観的・情感的に読む・もしくは感じるものだと思い込んでいたからである。
たとえば氏の分析の中では、本を読み解くために
下記のような点に着目するといいという。
・疑問文
(→小説に登場する疑問文は読者の疑問を代弁していることが多い)
・接続詞
(→作品・文章の構造を把握できる)
・5W1H
(→時代や場所から主題を読み解くことができる)
・対話
(→対立するふたつの意見を効果的に伝えていることが多い)
※こういう小説をポリフォニー小説 という。
・間
(→間をとったあとは重要な発言・場面が多い)
・漸増法
(→作品の盛り上がりと、作品に登場する数値等の増幅が合致させられていることがある)
・比喩
(→比喩は重層的に用いられていることが多い)
また、その他の読み方として
・辞書をひく
(→小説に登場するキーワードは重層的な意味で使用されていることが多い)
・著者がその設定にした理由を考えたり、そうでない場合の仮定・推論をしてみる
(→登場人物や状況の細かな設定にも作者の意図が隠れている)
などが紹介されていた。
これらをもし実践するなら、もはや「読む」こと以上に「考える」時間が長くなりそうで
それこそがスロー・リーディングなのだろう。
とすれば、文学作品を読むことも大学生にとって重要な読書ということになりそうだ。
むしろそのように多義的な読み方を許すのは、文学作品をおいてほかにない。
平野氏いわく、
「速読とは、『明日のための読書』である。[中略]
スロー・リーディングとは、『五年後、一〇年後のための読書』である」(p. 35)
何にせよ、「考える」ことなしに「読む」ということは
テレビドラマなどを見ているのと同様、娯楽に過ぎない という自覚は必要だ。
・・・私自身、これまでほとんど娯楽の読書しかしてこなかったことになりますが。
これからですな。
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