2012年6月10日日曜日
『出版大崩壊』
<内容のまとめ>
☆日本の現況
2010年は下記のような出来事があり「電子書籍元年」といわれた。
・各出版社・印刷会社・取次・書店・新聞社・電気機器メーカーなどが電子書籍事業に参入
・総務省・経産省・文科省が
「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」開催
・シャープ「GALAPAGOS」、ソニー「ソニーリーダー」などの電子書籍専用端末リリース
しかし現状では、携帯向けの漫画コンテンツが大半を占め、
一般的な電子書籍の流通はすすんでいない。
☆アメリカの現況
・2008年に発売されたアマゾン「kindle」がヒット(通信料金をアマゾンが負担)
・2010年、「Google E-books」、コンテンツ300万点をそろえてオープン。
※Google books プロジェクトでは、2009年初めまでに700万冊の大学図書館の蔵書が
電子化されたが、こちらは著作権をめぐり法廷での論争となった。
販売されるのは契約した出版社のもの。
☆ビジネスとしての電子書籍
1996年の最高記録(2兆6563億)以来
出版物売上高は連続で減少し2010年は1兆8748億。
その打開のためもあり、出版関係各社は電子書籍事業に着手せざるをえないが
電子書籍は印刷代・流通経費等が不要となる一方で、開発費等のあらたな費用が経営を圧迫。
著者がアマゾン・アップルなどのプラットフォームと直接契約すれば出版社は不要。
また紙の書籍より廉価でなければ購入が見込めないため、採算をとるのが困難。
そうなると出版社がビジネスにできるのは
音楽・映像等と融合させたリッチコンテンツとしての電子書籍の配信
しかない。
☆デジタル・コンテンツのたどる道
デジタル化が進めば、音楽等と同様に違法コピー・共有サイトなどが蔓延。
技術的に完全に阻止することは困難。
いまや音楽もゲームも、YoutubeやSNSで無料で利用する時代。
ウェブ上で流通する情報は無料との利用者の認識により
有料のコンテンツをウェブ上で販売し採算をとるのは困難。
☆著作権
・著作物には複数の著作権者が存在し、著作権処理が困難。
「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」の提案:
各著作物に著作権者を一人とし、許諾権ではなく報酬請求権を設定
・これまで日本の出版物に関しては契約書のないものも多くあった。
電子化に関してはさらに著作権問題が複雑になるため、出版社では契約書の形式を新たに作成するなどの対応。
☆自費出版
作家志望者の機会は増大するが、成功できるのは一握り。
また作品の増大にともない、プロの作家の作品もそれにうもれていくのでは?
自分にとって必要な作品・価値のある作品に出会うのがより困難になる。
<感想>
電子書籍元年といわれた2010年からの電子書籍に関する動向を概観することができる。
筆者は(日本での)電子書籍には悲観的で、
それは主にビジネスとして成立しないということが理由のようだった。
一利用者として考えれば
端末によって利用可能なコンテンツが左右される現状が解決されてほしい。
紙媒体の本でできていたこと(=どの本屋でもどの本でも買える)が電子書籍ではできないのでは
利用する気になれない。
しかし現状では、各社が競ってそれぞれのサービスを開発していたり
著作権の処理の問題がいっこうに解決されていなかったりして
そんな未来がくるとも思えない・・。
今はただ、書籍を電子化して専用の端末で書籍を読むことが「技術的に」可能になったというレベルなんだろうなぁ。
それがいいことなのかどうかもわからない。
筆者のバックグラウンドからも当然だが、出版社の立場から電子書籍を論じてあるので
図書館とか学術情報流通という視点からすればまた全然違う論点がでてくるだろう。
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