2020年5月30日土曜日

読書中の頭の中の音読について

本を読むときの「内声化」(黙読時に頭の中で音読すること)が、文章の内容理解にどう影響するか調査した論文を読みました。


森田 愛子, 高橋麻衣子. 教育心理学研究. 2019, Vol.67 No. 1, p. 12-25.
https://doi.org/10.5926/jjep.67.12, (参照 2020-05-30).

内容

これまでに音読と黙読の比較研究では↓のような結果が出ているそうです。
  • 小学校低学年での理解度は音読>黙読だが、高学年では黙読=音読か黙読>音読
  • 読み能力が低い場合に理解度は音読>黙読
  • 読み能力が低い場合、音読・黙読で眼球運動が同じだが、読み能力が高い場合には音読・黙読で眼球運動が異なった(理解しにくい場所にとどまったり、わからない部分に戻るなど)
こちらの論文では↓の2点が目的とのことでした。
  1. ”音読条件と黙読条件の間にみられる違いと,内声化強制条件と内声化抑制条件の間にみられる違いとを比較することで,音声化と内声化の機能の共通点と相違点について検討する”
  2. "内声化を行う程度によって読み手を分類し,文章理解や眼球運動に違いがあるかを調べる"
実験は↓の2つです。いずれの場合も”音読,通常の黙読,文章のすべてを内声化させる黙読(以降,内声化強制),内声化を抑制しながらの黙読(以降,内声化抑制)という₄条件を設け,文章読解時の記憶や理解成績,読解にかかる時間,および眼球運動を比較”しています。

実験①
  • 大学生24名(男12、女12)※内声化抑制ができなかった2名のデータは省いた
  • 12セットの課題を実施(文章1つを読んで、逐語記憶問題3問、文章内容問題3問に回答)
実験②
  • 大学生23名(男7、女16)※内声化抑制ができなかった2名、事前調査で内容理解できなかった1名のデータは省いた
  • 12セットの課題を実施(文章1つを読んで、文章内容問題3問に回答)
  • 普段の内声化スタイルを事前に調査⇒内声化多12名、内声化少8名
結果と考察は↓の通りでした。
  • 音読は黙読と比べ時間がかかり、眼球の運動が少なく、黙読時と成績は変わらなかった
  • 内声化は内声化しないのと比べ時間がかかるが、内声化するほうがしないより文章内容問題の成績が良い結果も出た(実験②)
  • 通常内声化をしているかしていないかによって問題の成績への影響が異なった
    • 通常内声化をしている場合の成績
      • 内声化抑制<黙読<内声化強制<音読
    • 通常内声化が少ない場合の成績
      • 内声化抑制<音読<内声化強制<黙読
  • 内声化は音読同様に内容理解を促進する可能性があるが、時間がかかるなどのデメリットもある。一方、内声化をしない黙読は、少ない時間で内容理解も促進できる高次の読み方だが、それ自体ができない場合も多い
  • 年齢や対象となる文章などについても考慮してさらなる検討が必要。

感想

同じ本を読むという行為でも、人によって頭の中でのプロセスが違うということは興味深いです。
こうすると絶対に読解力が上がるというのはいえないとしても、内声化する・しないというやり方があることを知ったり、わからない言葉のところでは立ち止まって考える・わからなかったところに戻るなどの読み方を知っておくことはひとつのヒントかもしれません。


2020年5月10日日曜日

絵本の読み聞かせと親子関係

絵本の読み聞かせが親子関係に与える影響についての論文を読みました。

佐藤 鮎美. 絵本遊びが親子関係に良い効果をもたらすのは本当か?. ベビーサイエンス. 2016, vol.16, p. 18-27.
https://www.crn.or.jp/LABO/BABY/LEARNED/16/Sato_BabyScience2016.pdf, (参照 2020-05-10).

絵本遊び(という表現が使われていました)がその後の言語発達や就学後の学業成績にいい効果をもたらすことはわかってきているそうですが(*)、親子関係にいい影響を与えることについては科学的検証はほとんどされていないとのことで、本稿ではその科学的検証(↓の2つの実験)が行われていました。
  • 生後9か月の赤ちゃんと母親10組を対象に、①絵本遊び、②おもちゃ遊び、③ツールなし の3種の遊び場面(各10分)をしてもらい、子供の行動に対する母親の働きかけ頻度を比較。
  • 生後9か月のあかちゃんとその母親28組を、①3か月間毎日絵本遊びをするよう指示したグループと②そうでないグループにわけ、生後9か月および生後12か月の時点のおもちゃ遊びの様子(母親からの賞賛の頻度と、子供のほほえみの頻度)を比較。
実験の結果からは、2つのことが導き出されていました。
  • 絵本遊びではほかの遊びより、母親の働きかけが多かった。(回数だけでなく、子供の意にそった働きかけが増えた)
  • 絵本遊びを増やすことによりほかの時間にも行動が変化する可能性が示唆された。(絵本遊びを増やしたことで、おもちゃ遊びの時間にみられる賞賛や子供のほほえみが増えた。ほほえみの増加=子供が普段から親にほめられていることの示唆と考えられるとのこと。)
このことの考察として、
  • 絵本と子供の媒介に親が必要であるからこそ、絵本の読み聞かせの習慣によって、(読み聞かせ以外の場面でも)親が子供を観察し、子供に対して応答的(子供の行動に対して的確・即座に反応する)になる変化がみられたことが考えられる
とのことでした。
母親が応答的であることは、母子関係における「愛着」(=「時間や場所を超えて持続する対人間の感情的なつながり」)の形成に影響すると考えられているそうです。

さらに、結論として書かれていたことが印象的でした。
筆者は、このように、親の応答的な働きかけを増やすという意味では絵本がおもちゃ遊びに勝る可能性があるけれど、それはひとつの側面にすぎないと言っています。
”今回得られた結果は、あくまで「母親の応答性」という一側面に特化した際、絵本遊びが有利か もしれないことを示唆するものである。筆者としては、 日々の生活のなかにはさまざまな遊びがバランスよく混ざっている状態が一番望ましいと考えている。では、本研究のように各遊びの特異性など研究する必要などないかといえば、それもまた否であろう。乳幼児発達の研究者である以上、乳幼児を取り巻く遊びの特性やその効果 を実証的に明らかにし、それを踏まえたうえで、「どの遊びも必要である」ことを発信していく必要がある。”
一母親としては(大学図書館員としても)、こうやって、研究の立ち位置を示してもらえるととてもありがたいなと思いました。

*↓こちらが引用文献として挙げられていました。読んでませんが。。
Wade, B., & Moore, M.:An early start with books:Literacy and mathematical evidence from a longitudinal study. Educational Review 50, 135- 145 (1998).