2012年5月31日木曜日

<図書館を学ぶ相互講座>電子化における図書館サービス・ポリシー : 電子書籍に図書館の貸出機能を組み込む 参加記録

日時 2012年5月26日(土)10:00-12:00
場所 大阪府立中之島図書館 ふれあいルーム
講師 大阪大谷大学 杉山誠司先生

一般に流通している電子書籍の図書館での貸出につき
前提となるいくつかのお話と、現況、課題、
またコンテンツの拡充に関する動向等につきお話いただいた。

<前提となるお話>

・近年、インターネットの普及により、図書館という場にくることなく
資料を利用するという形態がうまれた。

・電子書籍に関連する図書館業務
貸し出し手続きのみならず、たとえば目録方法の検討や
サービスポリシーの決定など、幅広い業務が付随して発生する

・電子書籍への反応
反応は様々であるが、利用したいというニーズがあることは確実
→そのニーズにこたえられる体制づくりが必要

<現況>

公共図書館での貸出状況
千代田区および堺市を代表的な例として紹介された
※その後参加者の方より、現況では7館が貸出を実施している旨報告があった

・貸出方法
①館内利用 ②専用ビューア(インターネット経由) ③DRM埋め込みデータをダウンロード
千代田区および堺市は②の方法を採用 
堺市は、ウェブサイトより一覧表示→書籍選択→閲覧(期間限定) の方法で貸出

・貸出ポリシー
貸出にあたっては著作権の問題が解決されておらず
個々に権利関係がクリアになったもののみが使用に供されている

購入冊数、同時貸出の扱いについても方針の決定が必要
※参加者の方より、1タイトルを複数冊買うようもとめられるなどの現状が報告された
購入の形態につき質問をしたところ、現状では購入の形態も様々である旨回答があった
(買い切り、権利の購入・・)


・対象とする利用者
現行では、現在の利用者(住民等)を対象にしているところが多い(ID・PWで認証)

<課題>

・電子書籍貸出サービスの拡大の方向性がなかなか見えない
限られたリソースの中で電子書籍に注力する動機付けとなる物がない

・端末の対応環境 
専用端末、携帯端末への対応が遅れ、PCのみの場合が多い

・利用契約終了時の扱いへの懸念(EJのような事態にならないか)

・コンテンツの拡充
千代田区の図書館でも利用可能冊数は4000冊。
ニューヨークの図書館では33,000タイトルが貸出可能。



<電子書籍コンテンツの動向>(一部紹介)

・ハリー・ポッターがOverdriveという図書館システムで無料貸出される

に代表されるように海外では電子書籍の普及がすすむ中、日本では


・App storeで違法に電子書籍化されていたものに対し日本の作家が提訴

に見られるよう、著作権の問題が壁となり普及がすすまない。
そんな中

・五木寛之氏 電子書籍出版に関しては前向き 。 講談社より小作品を115円で販売 。

などの前向きな動きもある


また、国立国会図書館の長尾前館長が提唱された
新たな電子書籍流通形態についての紹介があった。

通称長尾ビジョン☆1にもとづき、長尾氏が
「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」☆2において
利用者がどこからでも電子書籍にアクセスできる制度を提案されたが、
出版界の反対により実現が困難な現状が紹介された。

☆1長尾ビジョン

国立国会図書館60周年を迎えるに当たってのビジョン |国立国会図書館―National Diet Library

☆2「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」
平成22年3月17日より、総務省、文部科学省、経済産業省が共同で開催した。

総務省|「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の開催

総務省|デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会|デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会



<感想>

一般に流通している電子書籍を図書館で貸す場合、
収入という観点だけで見れば著作権者の反対があるのはある意味当然。
しかし図書館での貸出はいちがいに書籍の購入を妨害するとはいえないし、
電子書籍の流通は、活字文化の普及のようなより大きな社会的価値を持つ。
それにつき著作権者と図書館界が意識を共有しない限り普及は難しいだろう。
その点海外では著作権者と図書館界がどのように合意形成しているのかは注視の必要がある。

長尾氏の提唱されたような、著作権者への還元のある制度というのは
ひとつの選択肢。
冊子体の図書の貸し出しの時代から、
たとえば英国では貸出回数に応じた著作権料の支払いという制度がある。☆3


また、今後電子ジャーナルのようにコンソーシアムによる契約なども考えられる一方で、
自館の個性のあるコレクション構築の 必要性も感じた。


☆3以下のページに詳しい。
CA1579 - 動向レビュー:公共貸与権をめぐる国際動向 / 南亮一 | カレントアウェアネス・ポータル:









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