2021年2月14日日曜日

【読書の記録】『はじめての哲学的思考』苫野一徳


 







『はじめての哲学的思考』苫野一徳(筑摩書房、2017)

この本は、哲学とは何か、哲学的な考え方がいかに実生活の中で有用か、そしてその具体的な方法について説明しています。

一番印象的だったことは、哲学は意味や価値に関する本質を解き明かす営みである、ということです。意味や価値に関する考え方は人によって異なり(意味や価値は個人の欲望をもとに生まれている)、絶対的な真理はないからこそ、現実の世界ではお互いに納得できる共通の理解に至る必要がある場面があり、哲学はその場面で役立つ、ということでした。

どのように共通の理解に至るのかについては↓のように理解しました。

  • 議論をしようとしている事柄について、まずそれぞれの人がどのようなどのような意見をもっているのか、その意見はどういう価値観に基づいているのかを理解しあう
  • 双方の意見・もとづく価値観を理解しあったうえで、それらの価値観・意見の妥当性をお互いに検討し、双方とも共通で目標とできるような事項へと集約させていく

また、哲学的な考え方を実践する注意点やコツとしては↓の点が紹介されていました。

  • 自分の意味や価値の世界に基づいて、それが人にも当てはまると判断(一般化)しない
  • 建設的な回答が出ないような、「真か偽か」の問いの立て方をしない
  • 自分の価値観だけに基づいて、事実から「〇〇すべき」を導かない
  • 「〇〇せよ」ではなく「どうしたら〇〇できるか?」と考える
  • (↑のようなことをほかの人が行っていないかにも気を付ける)

哲学的思考の実践方法としては、↓が紹介されています。

  • 「哲学対話」(本や映画などの好きな芸術作品について、そのすばらしさを言語化し、お互いに話し合うことで、自他の価値観を再確認し、時に共有できる)
  • 「共通理解志向型対話」(ディベートのように二手に分かれて勝敗を競うのではなく、議論の末にお互いの納得できる結論を導くことを目標とする)
  • 「本質観取」(ある事柄の本質を、複数人で話し合う。事柄の本質は、自らの経験などに基づいて、その特徴や類似事項との違い、意味付けなどから考える。最終的にはその事柄に関する疑問や悩み?の解決について話し合う)

また、複数人での話し合いに限らず、自分個人の問題に関しても、本質を見つめることで解決することがある事例が書かれていました。(自分の考えが欲望に根差していることを自覚し、その欲望を満たすために努力する/あきらめる/欲望を変えるなどの対策をとる)

哲学は、その性格ゆえに、これまでに哲学によって解き明かされてきたことを自分に生かすことでも役立つし、これから何かを議論していく際の手法としても役立つことがわかりました。

なお、本書では教育学に関する事例が多く挙がっています。
たとえば教育学において各論を主張する人が異なる価値観に基づいて主張を行って議論が平行線になってしまう事例や、議論に関わる人の間で語の定義の解釈自体が異なる例、自分の成功例を一般化してしまう例が挙がっていました。

教育学は多くの人に直接的に関係する学問だと思うので、哲学的な立場に根差した建設的な議論が深まってほしいし、情報を享受する側は、哲学の知識を持っておくことでそういった議論の破綻に気づけるなと思いました。


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