2012年8月25日土曜日

大学の教育目標

大学図書館が何をすべきか考えるにあたって、
大学の教育目標をしっておかねばなーと思い、調べてみました。

大学は、高校までと違って学習指導要領というものはありませんが
法令や、最近発表された公的文書では以下のように書かれていました。

・中教審大学分科会審議まとめ

予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」 (H24)


「このような時代にあって、若者や学生の
「生涯学び続け、どんな環境においても
“答えのない問題”に最善解を導くことができる能力」を育成することが、
大学教 育の直面する大きな目標となる。
学士課程教育は、学生の思考力や表現力を引き出 し、その知性を鍛え、
課題の発見や具体化からその解決へと向かう力の基礎を身に つけることを目指す
能動的な授業を中心とした教育が保証されるよう、質的に転換 する必要がある。
大学には、その転換に早急に取り組む責務がある 。 」  (p. 1より)


・中教審答申
学士課程教育の構築に向けて」(H20)


「学士力 ~学士課程共通の学習成果に関する参考指針~ 」として
以下の項目があげられています。

1知識・理解
(1)多文化・異文化に関する知識の理解
(2)人類の文化,社会と自然に関する知識の理解

2汎用的技能
(1)コミュニケーション・スキル
(2)数量的スキル
(3)情報リテラシー
(4)論理的思考力
(5)問題解決力

3 態度・志向性
(1)自己管理力
(2)チームワーク,リーダーシップ
(3)倫理観
(4)市民としての社会的責任
(5)生涯学習力



4総合的な学修経験と創造的 思考力
これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,
自らが立てた新たな課題にそ れらを適用し,その課題を解決する能力 」
(p. 12-13)


・教育基本法第七条 (H18)

「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、
深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、
社会の発展に寄与するものとする。」



・学校教育法第五十二条 (S22)

「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、
深く専門の学芸を教授研究し、
知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」


近年になるに従い、問題解決力や、
その前提となる、問題を発見する力が
重視されるようになったようです。




2012年8月21日火曜日

初年次教育について(中教審答申より)


初年次教育で教える内容にはなにか指針があるのだろうか?
というわけで、初年次教育についてふれられている、
以下の公的文書を確認することにした。



文部科学省中央教育審議会大学分科会「学士課程教育の構築に向けて(答申)」
2008年12月24日



「我が国の大学においては,初年次教育として,「レポート・論文などの文章技法」,「コ ンピュータ

を用いた情報処理や通信の基礎技術」,「プレゼンテーションやディスカッシ ョンなどの口頭発表の

技法」,「学問や大学教育全般に対する動機付け」,「論理的思考や 問題発見・解決能力の向

上」,「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている。」

(本文p.35より抜粋)




「高等学校から大学への円滑な移行を図り,大学での学問的・社会的な諸経験を“成功”させるべ

く,主として大学新入生を対象に作られた総合的教育プログラム。高等 学校までに習得しておく

べき基礎学力の補完を目的とする補習教育とは異なり,新入 生に最初に提供されることが強く意

識されたもので,1970年代にアメリカで始め られ,国際的には「First Year Experience(初

年次体験)」と呼ばれている。具体的内容としては,(大学における学習スキルも含めた)学問的・

知的能力の発達,人間 関係の確立と維持,アイデンティティの発達,キャリアと人生設計,肉体

的・精神的 健康の保持,人生観の確立など,大学における教育上の目標と学生の個人的目標の

両者の実現を目指したものになっている。」 


(用語解説より抜粋)



※これにさきがけて、中教審大学分科会の「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」
(2008.4.1)でも同様の文面で言及されている。



高等教育には、高校までのように「学習指導要領」のようなものがなく
初年次教育に関しても、指針があるわけではないみたいだが、
現在重視されている内容は、学習に必要な基本的スキルが中心のようだ。

今度は各大学の具体例をみていくことにする。


<参考>

中央教育審議会
大学分科会

2012年8月20日月曜日

初年次教育について


初年次教育で読書とか読解力を教えている例を調べようと思ったが

まずは初年次教育そのものについて各社新聞サイトで調べてみた。

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目的:大学新入生を大学生活に適応させること


内容:生活面(時間管理法やストレス対処法など)から

学習方法(図書館の利用方法、ノートの取り方、論文の書き方など)まで、幅広い分野


特徴:従来大学では教えなかったような幅広い分野の内容を新入生に集中的に学ばせる。


方法:少人数ゼミ、文理融合(学際的科目の設置、文⇔理系の相互履修など)、

リメディアル(補修)教育、ポートフォリオの導入・・・など


背景:

ゆとり教育・入試の多様化・少子化・大学の増加などによる、大学生の学力の低下問題。

学士課程修了生が社会人としての力を備えていないという社会からの要請。

中途退学・早期離職者の存在。


現状:

調査に回答した1378学部のうち約9割が何らかの形での初年次教育を実施。    

(2007年度、文部科学省国立教育政策研究所)


実施例:

関西国際大学では2000年より実施。

テキストとして作成した『知へのステップ』(くろしお出版)は、100以上の大学で採用された。


その他、文科省のGPでの取り組み例


起源:米国で学生運動が終了した1970年代ごろから、

学生を学習に向かわせる対策として行われた。

しかし初の米国での新入生向けのセミナーは、ケンタッキー州のLee大学で1882年に行われ、

単位のもらえる履修科目としてのセミナーはReed大学で1911年に行われたが

その後1960年代ごろまでにはだいぶ下火になっていたという。



最近の動向:2008年3月に「初年次教育学会」発足。


<コメント>


基本的な態度や生活に関することまで、初年次教育が対象とすることは思いのほか広い。

とはいえ、表現力とかコミュニケーション力・アカデミックライティングなど、

言葉に関する能力はやはり重視されているようだ。



最近は、「ラーニング・アウトカム」=学習効果 をいかに高めるか、に注目が集まっているらしい。



「図書館の利用方法」「文献の探し方」などについてのみならず

「どういう目的のもとで本を探すか」とか「探した本読んでどう自分に生かすか」

についても大学図書館が学生に案内できれば、

「ラーニング・アウトカム」を高めることへの貢献 につながるのではないかと思った。




参考ページ

University of South Carolina. "Welcome to University 101". http://sc.edu/univ101/, (参照2012-8-19).

2012年8月19日日曜日

大学生の読書推進活動



「国民読書年」ということで、なんとなく読書推進活動が盛り上がっていた2010年。

公共図書館での各種イベントや、赤ちゃん向けの「ブックスタート」のほか

小学校~高校では、授業の中で読書指導を行ったり

「ブックトーク」「朝の10分間読書」「読書のアニマシオン」など

いろいろな形で読書推進活動がなされている。

自分の職場である大学図書館ではそれに関わる活動はしていないなぁ・・と思っていたが

Cinii、カレントアウェアネスポータル、新聞記事サイトなどで調べてみたところ、

大学でも以下のような活動が行われていることがわかった。



■大学生協


・読書マラソン(①)

約10年前から全国の大学生協で始まった活動。

活動の原型は2004年度に法政大学生協多摩店で始まった。

在学中に100冊を読破することをめざし、

読後に提出するコメ ントカードが一定枚数に達すると書籍割引券などが 提供され、

カードは実際の本と一緒にポップとして店頭に 出される。

早稲田大学、法政大学などでは大学読書サークルも生まれ、

店頭のフェアの入れ替え、コメントカードの整理、読書会の開催などを行っている。

2005年度からは全国の大学生協からコメントを募集 し「コメント大賞」を決める企画も開始。




■全学的取組

・フェリス女学院大学

図書館運営の委員会のメンバーの教員により提案され

2002年度から「読書運動プロジェクト」が開始。

平成17年度「特色ある大学教育支援プログラム」 (特色GP)採択。(4年間)

全学的に毎年テーマとなる1冊の本を決め、それに沿って

読書会・映画上映・授業開催など様々なプログラムを行う。

テーマとなる1冊は、『火車』、『壁』など、文学作品が中心。

図書館および有志の学生プロジェクトメンバーで運営。

これに関しては書籍が2冊発行されている。(②、③)




■授業

教員が自らの授業で読書指導に取り組んでいる事例


・常葉学園短大学(④)

学生は自分で選んだ本(ノンフィクションの、索引や参考文献・図表のあるもの)を多読し

レポートを作成。教員が添削・指導する。



・富山県立大学(⑤)

学生は思想・文学・科学など幅広い分野の選定図書の中から本を選んで、読後は感想文を提出。

教員が添削・指導する。

ちなみに「棚町方式」と呼ばれる方法を踏襲している



初年次教育などで、ライティングやリテラシー教育とあわせて

読解力についても指導している例もありそう(なので調べてみよう・・)。




■図書館

図書館で行っている活動はある意味すべて広義での読書推進活動と

いえなくもない。

たとえば、



・学生参加型サービス

・教員からの読書案内


などは学生の読書を推進するために行っていることである。

最近の、特色ある試みとしては、たとえば下記のようなものがある。



九州大学附属図書館「booklink」2011.9~

学生がおすすめ図書をウェブ上の本棚「ブクログ」に登録し

次の紹介者を指名することで連鎖的におすすめ図書がレビューされる仕組み。

実物も図書館に展示をする。




帝京大学メディアライブラリーセンター「共読ライブラリー」2012.5~

編集工学研究所と共同で、全学的な読書プロジェクトとして開始。

College MONDO(カレッジ問答)書架群:

学生の悩みや問いに答える本を、著名人・教官・他の学生などが選び配架

読書術コースウェア:

入学時にオンラインのコースをグループ学習し、読書に必要なスキルの習得をめざす




創価大学図書館「Soka Book Wave」2004年度~


学生有志と図書館で構成する団体「Soka Reading Project」が中心となり活動。

読書感想文を提出し、認定された件数に応じてポイントがたまり図書カードがもらえる。

その他講演会や特別展などのイベントも企画。

教育・学習活動支援センター開催の講座(文章読解スキル講座、文章力アップ講座、図書館活用力アップ講座など)

受講でもポイントがたまる仕組み。




京都外国語大学、読書運動「本の虫プロジェクト」2008.6~


「楽読楽書、めざせ100冊!」:学生自身による書評書き込みサイトで、

学生による学生への読書案内ともなっている。

「私のイチオシ」by外大教職員:教職員によるおすすめ本のサイト。


<参考文献>

①佐藤 由紀, 近森 節子, 酒井克彦. 大学生の読書実態と生協組織を通じた学生主体の読書推進運動の構築. 大学行政研究 = University Administration Studies. 2007, 2, p.61-73.

②フェリス女学院大学附属図書館. いま、図書館に求められるもの . ひつじ書房, 2009, 129p., (フェリス女学院大学の挑戦, 1).

③フェリス女学院大学附属図書館. 大学生『火車』を読む. ひつじ書房, 2009, 240p., (フェリス女学院大学の挑戦, 2).

④大場 博幸. 大学における読書教育:その必要性と目標・方法. 常葉学園短期大学紀要. 2010, 41, p.11-24.

⑤中 哲裕. 理工科系大学における国語教育 : 本学における実践的読書指導. 富山県立大学紀要. 2002, 12, p.90-99.





<まとめ>



今回調べてみて、自分が「読書推進活動」としてイメージしていたものには

「読書推進」と「読書指導」のふたつが含まれていたことがわかった。

二つははっきりと境界があるわけではないが


「読書推進」=本を読む習慣をつけるとか、より多くの本にふれてもらう 

「読書指導」=本を読む技術を指導する


というような違いがある。

その役割はそれぞれ違うとも言えるが、

この二つをうまく組み合わせなければ

効果が期待できないとも言える。

大学生は自ら学ぶことがより求められているが

読む力がなければ、いくら多読しても

得るものが少ないのではないだろうか。

大学での「読書指導」のほうにより焦点をあててしらべてみよう。